「ファイザー製薬」と言えば、世界を代表する製薬会社ですよね。その資本力や開発力をもってすれば開発できない“新薬”は無いんじゃないの?なんて思ってました。ファイザー製薬がアルツハイマー病やパーキンソン病の新薬解発に乗り出すと発表された時、心の中で『良し!』なんてガッツポーズしてました。
ところが、そのファイザー製薬が新薬開発の中止を決定したとのニュースが舞い込んできました。このガッツポーズはどうすれば良いのでしょう?
ファイザー製薬とは
【2017年製薬会社世界ランキング】
売上高トップはスイス・ロシュです。ロシュがトップになったのは初めてのことだそうです。ファイザーは2位に後退。3位はスイス・ノバルティスという結果。
2017年の集計対象となったのは、12月期の世界売上高が100億ドル以上の製薬会社21社。抗体医薬の抗がん剤が好調なロシュが、米ファイザーから世界一の座を初めて奪いました。スイス・ノバルティスは3位をキープ!※このランキングは2月末までに業績発表を行った製薬会社で、日本企業や、この時点では業績を発表していない企業も、ランキングに反映していくとのことです。
ちなみに2016年の世界ランキングトップは「ファイザー」です。4位は米メルク。5位は希少疾病用医薬品が大きく伸びた仏サノフィ。6位は抗HIV薬が好調な英グラクソ・スミスクライン。
【ファイザーの歴史】
1840年代半ば、ドイツから新天地アメリカにやって来た2人の若者、薬剤師見習いのチャールズ・ファイザーと菓子職人のチャールズ・エアハルトは従兄弟同士。2人が1849年に設立したのが、化学会社「チャールズ・ファイザー・アンド・カンパニー」なのです。
ファイザー社発展は、まず特殊化学薬品から!駆虫剤「キャンデー状サントニン」を開発、ホウ砂、ショウノウ、ヨードなど10種類以上の化学薬品や医薬品の原末を製造し業績は順調に伸びていったそうです。
1880年には薬品、食品、ソフトドリンク、洗剤、工業用などに幅広く利用される「クエン酸」を製造し、ファイザー社の発展を支える主要製品となりました。今、私たちが聞いても分かるものばかりですよね!
そして何といっても医学にとって革新的とも言えるのが、ファイザー社の『ペニシリンの工業化』。ペニシリンは1928年にフレミングによって発見されましたが量産化の目処が立たないままだったそうです。
1941年、ファイザー社ではリスクの高い開発に着手し、なんと当初の予想を5倍も上回る量のペニシリンの生産に成功!ファイザー社は同技術を競合メーカーに提供し、第二次世界大戦中、アメリカ政府から委託された19社がペニシリンを製造し、戦争で傷ついた、多くの人々の命を救うことになったとのことです。
ファイザー社は、新しい抗生物質の発見に力を入れ、1950年に広域抗菌スペクトルの抗生物質テラマイシンの開発に成功したのです。そして、アメリカ国内だけではなく、積極的な海外進出を展開。1953年、ファイザー社は「ファイザー田辺」として日本に進出しました。
そのファイザー製薬がアルツハイマー病やパーキンソン病の新薬研究開発を中止
2011年、ファイザーが製造しキッセイ薬品が販売していたパーキンソン治療薬カバサール錠(一般名:カベルゴリン)を翌年4月1日からファイザーに販売を移管しました。その後ファイザーのエスタブリッシュ医薬品事業が単独で販売することに。このまま、ペニシリンの時のようにパーキンソン病にも新たな時代を『ファイザー』がもたらしてくれるかと思ったのですが…。
今、世界中でパーキンソン病に苦しんでいる患者は、何千万人にも及ぶといわれています。けれど、大手製薬会社の研究にもかかわらず、根治治療に結びつくどころか、進行をくい止める薬すら開発されていません。昨年には世界ランキング4位の製薬会社メルクがアルツハイマー病治療薬の研究を断念し、それに続くようにファイザー社も…。それほど、神経疾患を治すということは困難を極めるものなのですね!あらためて自分が罹患した病気の恐ろしさを実感しました。
2018年1月、米ファイザーは、アルツハイマー病やパーキンソン病の研究を含む神経科学の新薬研究開発を中止することを決定しました莫大な投資にもかかわらず結果がでなかったためとのことです。
❖アルツハイマー病とは?
何度も出てくる病名ですので、少しアルツハイマー型認知症について触れておきます。アルツハイマー型認知症は認知症の中でも最も多く、全体の約6割を占める病気です。
そして、男性よりも女性に多く見られる傾向があります。また脳血管性の認知症などの患者数は横ばいですが、アルツハイマー型認知症は増加傾向にあるとの報告がなされているようです。
アルツハイマー型認知症は、脳にアミロイドβやタウと呼ばれる“特殊なたんぱく質”が溜まり、神経細胞が壊れて死んでしまい減っていく為に、認知機能に障害が起こり、脳全体の委縮により身体機能も失われていくのだそうです。
このアルツハイマー病の治療薬には、過去10年間、数々の製薬会社が挑戦しては、ことごとく失敗に終わっているようです。なんという強者でしょう!
今後のファイザー製薬は?
ファイザー製薬は、神経科学の創薬プログラムを打ち切ることを決めましたが、米イーライリリーと共同開発中の疼(とう)痛治療薬タネズマブ、線維筋痛症治療薬「リリカ」の研究支援は継続することを発表。
また、希少疾患の神経治療薬の研究を続けることも発表しました。そして神経科学に取り組むベンチャーファンドを間もなく開始する予定であることも明らかにしたそうです。
私たちパーキンソン病患者にとっては“肩すかし”的な感じですが、この研究打ち切りの波紋は違うところにも飛び火したようです。この治療薬開発断念に伴って、アンドーヴァー、ケンブリッジ、マサチューセッツ、コネチカットにある神経科学部門の300人の研究者が解雇される予定なのだそうです。
日本でも、論文ねつ造の事件がありましたね。研究者が落ち着いて、研究に没頭できなければ望ましい結果が期待できるのでしょうか?
一方で同志社大学生命医科学部では、アルツハイマー病(AD)脳に蓄積するアミロイドベータ(Aβ)の網羅的解析を、イメージングマススペクトロメトリー(IMS: Imaging Mass Spectrometry)法を用いて、可視化することに成功したと発表がありました。
また、京都府立医科大学と日本医療研究開発機構(AMED)の共同研究グループは、血液によってアルツハイマー病を診断する技法を、世界で初めて開発したそうです。今後の神経疾患の研究成果に期待するしかありません。
まとめ
今、私たちが病院に行けば直ぐに処方される“抗生物質”。けれど、ペニシリンが量産化されるまで肺炎や結核、梅毒などは不治の病だったのです。それも、わずか80年くらい前まで…。
以前の記事で『難病は変わる』と書きました。たった1種類の薬、1つの治療法の発見で、今治療法がなくて難病と言われている病気も、病院に行けば「はい、お薬出しておきましょうね!」で治ってしまう病気になるかもしれないのです。
パーキンソン病や神経疾患にとって“ペニシリン”のような存在の薬や治療法が発見される!そんな希望は捨てたくないですね。
コメント